インフォメーション・ネットワーク社

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1.訪問先   Information Network, Inc.(インフォメーション・ネットワーク社)
        http://www.medicinenet.com/
        First Internet Franchise Corp.(ファースト・インターネット社)
         1060 Calle Cordillera, Suite 101, San Clemente, CA 92673
2.訪問日時  1996年10月11日(金)16:30〜18:30
3.説明者   ・Dennis Lee, MD Chief Executive Officer of Information Network, Inc.
        ・Larry A.Austin,Senior Vice President of First Internet Franchise Corp.
4.報告者   (有)ヒエダデザイン研究室 桧枝英利
        大成ジオテック株式会社  横山 巌


1.概要

 インフォメーション・ネットワーク社(Information Network, Inc.)は、インターネットを利用して医療情報を提供するウェブ・サイト“メディシン・ネット”を運営している。皆保険制度のない米国では、大半の国民が民間保険に加入しているように、医療分野においても自己負担が原則である。このため、医療情報に対するニーズが大きく、これに応えるものとしてメディシン・ネットのような医療情報をサービスするネットワーク・コンテンツが企画された。
 今回の訪問では、インフォメーション・ネットワーク社の最高経営責任者であるデニス・リー医師(Dennis Lee, MD)からメディシン・ネットの内容を説明して頂くとともに、同社のパートナーでインターネット。プロバイダー会社であるファースト・インターネット社(First Internet Franchise Corp.)の最高経営責任者のマイシンガー氏からインターネット・プロバイダー事業について説明を受けた。ファースト・インターネット社は、フランチャイズ形式で地域プロバイダー運営のサポートを行っており、また、メディシン・ネットはファースト・インターネット社のサーバーを利用して運営されている。

2. ファースト・インターネット

 ファースト・インターネット社は、インターネットへのアクセスポイントや、電子メール、ホームページ、イントラネット構築等のサービスを利用者に提供する、いわゆるインターネット・プロバイダーであるが、企業家が新たなインターネット・ビジネスを立ち上げる際に様々なノウハウを提供するパッケージ・ビジネスをフランチャイズ形式で展開しており、次のような特徴がある。

* 通常のプロバイダーは、アクセスポイントを全国的に展開し、不特定多数の利用者への サービス提供を行うが、ファースト・インターネットでは、地域の企業家をフランチャ イジーとして、地域に重点を置いたサービスを行っている。
* 一般の企業家がインターネット・ビジネスを始める際には、DNSサーバ、Webサーバ、 Mailサーバ等の設備投資やコンテンツ(提供情報)の構築といった事項に関する様々な ノウハウが必要となるが、ファースト・インターネットではこれらのノウハウをパッケ ージとして提供するため、同社のフランチャイジーになれば、たとえインターネットの 技術的要件を知らなくても、容易にインターネット・ビジネスを始めることができる。
* フランチャイジーの運営するインターネット・サーバの80%がファースト・インター  ネットで管理されており、フランチャイジーがインターネットを運営するのための技術 的な要件はほとんど自動化されている。
* フランチャイジーは、セットアップならびにトレーニングのため、一週間程度を要する のみである。
* 現在、全米19州において37のフランチャイジーがおり、地元のコンピュータ・スト アや地方新聞社等のローカル企業がフランチャイジーとなり、地域のインターネット・ プロバイダーとして活動している。
* 今後も、人口5千人から1万人規模の都市において、その地域を基盤とする企業をフラ ンチャイジーとして事業を展開する予定である。
* 海外では、8ケ国に所在する企業とフランチャイズ契約を行っており、アジア地域で  は、シンガポールのフレックステック社とマスターフランチャイズ契約を結んでおり、 日本で事業展開する場合は、同社が窓口となるであろう。

3.メディシン・ネット

 メディシン・ネットは、1995年6月にスタートし、デニス・リー医師のもと、ウィリアム・シール医師(William Shiel Jr., MD)を主任編集者として、20名〜30名の医師の協力により運営されている。
 皆保険制度のない米国では、大半の国民が民間保険に加入しているように、医療分野においても自己負担が原則である。このため、健康や医療情報に対するニーズが大きく、これに応えるものとしてメディシン・ネットのような医療情報をサービスするネットワーク・コンテンツが企画された。
 メディシン・ネットは、インターネット上のウェブ・サイトであるが、ここには病気や薬、手術、新しい発見といった様々な医療情報が貯えられており、さらに整備が進んでいる。また、メディシン・ネットでは、利用者からの電子メールによる質問が1日に40〜50件あり、これには一週間程度で回答できるようになっている。現在の情報の流れは運営者と利用者の間に限られるが、将来的には利用者間で情報交換ができる場を設けたいと考えている。
 インターネット上では、医療関係者を対象にした情報提供サービスや情報交換の場もあるが、メディシン・ネットでは、一般の人々に対する医療情報の提供・教育を目的としており、治療や処方または医療アドバイスを行うものではない。メディシン・ネットの利用者は、病気や薬に対する知識を分かり易い言葉で知ることができ、また、常に最新の情報を得ることができる。
メディシン・ネットの利用は無料であるため、現在、これを運営するネットワーク・インフォメーション社に運用益は入ってこない。また、運営に携わっている医師たちも無償で協力している。この点に関しては視察団からも質問があり、デニス・リー氏は次のように回答した。
* このビジネスの商品は「知識」であり、我々は資金ではなく30名の医師の知識を投資 していると考えている。
* 運営費用を最小限に押さえるため、従業員のいないヴァーチャル・オフィスとし、ネッ トワーク運営に関してはファースト・インターネット社が担当している。
* 将来的には企業スポンサーを得て、利益を得たいと考えている。そのためには、多くの ユーザーを得ることと、情報の蓄積を図ることが必要である。また、企業スポンサーを 得た場合でも、情報提供者としての中立性を確保できるように十分に検討する必要があ る。
* ほかに利益を得る方法としては、新薬のトライアルユーザを探したり、アンケート調査 などが考えられる。
 また、インターネットで利益を得るのは難しいのではないかとの質問に対しては、次の ように答えている。
* インターネット・ビジネスは乱立しており、メディシン・ネットに競合するサービスも 多く立ち上がっている。しかし、良いサービスやアイディアを提供出来る強いものが生 き残り、弱いものはなくなるであろう。ここに利益を得るチャンスがある。
* メディシン・ネットでは、ここ3年程度は利益が出ないものの、費用もかからない体制 で運用していく予定である。

4.所感等

 ネットワーク・インフォメーション社は、今回の視察旅行における最後の訪問先であり、サンディエゴ市からロサンゼルス市へ向かう4時間あまりのバス移動の途中、小高い丘に開発されているビジネスパークの中にあった。ビジネスパークといっても、低層建物が木々の中に散在するような場所だが、そのなかでも、ネットワーク・インフォメーション社は1・2階建ての事務所兼倉庫といった建物内にあり、最初は見つけるのにも手間取った。
 ちなみに、車社会であるアメリカでは、多くの事業所が都心を離れ郊外に分散しており、ネットワーク・インフォメーション社が特別な場所にあるわけではない。また、日本とアメリカの「郊外」に関する距離感覚は数倍〜数十倍の違いがあるようで、アメリカの広大な国土と、そこを縦横無尽に走り、片側数車線もあるフリーウェイ(無料)が、日本の国土との違いを感じさせた。
 ネットワーク・インフォメーション社へは、午後4時に到着し、多くのスタッフから歓待を受け、前述した事業内容の説明のほか、ネットワーク設備を見学させて頂いた。また、休息時間に未熟な英語でコミュニケーションを図ったところ、あるスタッフの奥さんが鎌倉出身の日本人とのことで、大いに盛り上がった。
 当初、我々はネットワーク・インフォメーション社とファースト・インターネット社の互いの位置付けが分からず混乱したが、デニス・リー氏の説明により、ファースト・インターネット社がネットワーク・プロバイダーとして収益事業を行い、ネットワーク・インフォメーション社はメディシン・ネットのコンテンツ(中味、情報)を提供し、知識を投資するヴァーチャル企業であろうと理解した。両社は同じ社屋内にあり、ネットワーク設備の運営はファースト。インターネット社が担当していると思われる。ただし、これらの事業によって、収益があがる予定は当面なく、現在は投資の時期であると考えているようである。そのため、出来るだけ出費を少なくしようとしており、事務所や人員構成などにその努力がみうけられた。
 このような企業運営が可能であることは、我々視察団の面々にとって驚きであり、改めてアメリカのベンチャー・ビジネスの先進性とフロンティア・スピリッツに感心したところである。しかしながら、単なる先進性だけで、アメリカでネットワーク・ビジネスが盛んになったわけではなく、その社会的背景を考慮しなくては、片手落ちになるであろう。私見ではあるが、その社会的背景について次に考察した。


* ネットワーク・コミュニケーションが潜在的に望まれていた社会的背景
* 車社会、個人主義社会
* 時差がある広大な国土
* 都市のスプロール化
* 事業所・住居の分散化
* ネットワーク・コミュニケーションが実現されうる社会的背景
* ビジネスライクなビジネス形態(いちいち訪問したりしない)
* 廉価な通信インフラの整備(市内定額約3,000円)
* パソコンの普及(一般家庭でも納税申告のためパソコンが普及)
* タイプライタ文化(キーボード・アレルギーが無い)

 以上の様な社会的背景のもと、アメリカでは、ネットワーク技術の向上とネットワーク・ビジネスのサポートにより、SOHO(ソーホー:Small Office Home Office)と呼ばれる事業所分散や在宅勤務といった就業形態の変化、ならびに、ヴァーチャル・オフィスやヴァーチャル・カンパニーのような事務所を持たない或いは社員がいない仮想企業の設立が、ある程度は進んでいくことが予想される。

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写真はデニス・リー氏の説明を聞いているところ