NRI Pacific Inc. (野村パシフィック社)

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1.訪問先   NRI Pacific Inc. (野村パシフィック社)
(会社の住所は以下のとおりだが、説明は我々が宿泊していたサンフランシスコのパークハイアットホテルの会議室で行われた。)
1400 Fashion Island Blvd., Suite 1010 San Mateo, CA 94404
2.訪問日時  1996年10月7日(月)14:00〜15:30
3.説明者   NRI Pacific Inc. 社長 渋谷 祐司 氏
4.報告者   久留米・鳥栖地域インターネット協議会 猪口 徹
 
 今回の視察先はインターネットで「何か」を「やっている」ところが主体であったが、概論的な話も聞きたいということで、野村パシフィック社の渋谷社長に「ネットワーク社会に起きている変化」というタイトルで講演をしていただいた。
 講演は、インターネットを中心とした情報化が社会に与える影響について、主にアメリカにおける話を、そして日本の場合どうかという事を織り込みながらおこなわれた。

1.大きな社会変化の波

 今、社会はインターネットにより大きく変わろうとしていると言うが、インターネットが社会を変えるのではなく、社会の変化の中でこういう技術が脚光を浴び始めたということを忘れてはならない。新しい技術を知ったからと言って社会は変えられない。それをどう使うか、どういうモチベーションのもとに使うかが大事である。
 今起きている変化も、技術の変化だけ見ていると判断を誤るかもしれない。もっと大きなトレンドの変化を見た方がいい。
 大きなトレンドの一つには、米ソ冷戦の終了による優れた情報通信技術の民生機器への応用がある。
 もう一つには情報通信技術の進歩によるコミュニケーションの変化がある。汎用コンピュータから育った世代とC/Sシステムから育った世代ではものの考え方が違う。
ソフトウェアの開発においては歴史のある国が優位とはいえなくなってきた。インドは今世界が注目するソフトウェア開発の先進国だ。日本製製品の品質・技術による優位性も、自動化機器の発達により絶対とはいえなくなってきている。
 日本の国際競争力の低下を嘆く声はあるが、どうしたらよいかは見えていない。アメリカの力の回復は日本を参考にして生産技術の導入をホワイトカラーに対して行ったことが成功の要因だ。
 ホワイトカラーの生産性の向上も、人の心をどう動機付けするかが大事。競争力を保つためには組織をどうしたらよいかという研究が今盛んに行われている。

2.変化の中で何を目標にするか

・顧客を大事に(競争の根源は顧客にある)
・従業員を大事に(会社の資産である)
・会社の持つカルチャー(○○流)を大事に

 要するに会社の中のものも外のものも資源で、これをどううまく使うか、Maximizeするかがポイント。これを可能にしたのが情報技術である。

3.アメリカの企業経営の変化

 顧客満足度をどう測定するかという問題について、昔はお客様カードとかあったが、今800番サービス(日本の0120に相当)による苦情受付により、これをコンピュータ処理し、次のビジネスアイデアに結びつけている。
 顧客サービスには、自分の会社の社内業務の一部をアウトソースするというやりかたもある。ATMやホームバンキングもそのひとつ。銀行業務の中のプロセスの一部だったものをお客さんにアウトソースすることにより、参加意識を持ってもらえる。プログラムのβ版を公開し、バグ取りをやるのも同じような考え。
 社内資源の有効活用としては、知的ワーカーの持つノウハウをいかに知識DB化するか、また、社内の情報をどうオブジェクト化し整理するかが重要課題。

4.アメリカの家庭や学校の変化

 アメリカの家庭でのコンピュータ普及率は何%かとよく聞かれるが、職業や所得によって大きく異なり、平均には意味がない。例えば、銀行員の家庭だと80%近い普及率である。
 また、知的労働者は会社のコンピュータを家庭に持ち込み、ネットワーク機器とつないで24時間仕事をしている。休暇中でも寝てるとき以外はメールをチェックしている。そこまでやって成果を出していかないと次の仕事が無い。
 労働者の向学心は強く、通勤電車の中で勉強している人が多い。(スポーツ新聞や小説を読んでるどこかの国とは大違い)
 しかし、教育面、特に初等教育における遅れは懸念されていて、ここに、コンピュータ(ネットワーク)の学校への導入の重要性が指摘されている。
 シリコンバレーを「いい」地域にしようとできた、スマートバレー公社では、「ネットデイ」なるものを設け、学校へのネットワークの導入を呼びかけた。資材をどこから調達して、ボランティアをどう集めて、どう使うか、プロジェクトのマネジメントは大変である。しかし、ここにノウハウの蓄積ができ、次のプロジェクトに利用できる。
 11月には「PCデイ」というものを企画している。これは優れたパーツを寄付で集めてアセンブルし学校に寄付しようという取り組みだ。
 一方、大学は進んでいる。今の回線は商用利用により混み出したので、大学だけを結んだ「インターネット2」というものを作ろうという話がある。
 大学の講義は、先生のホームページにある内容で予習し、カリキュラム選択もネットワークで行う。最近は、無線を使ったネットワーク接続が普及してきた。


5.アメリカの新たな課題

・マルチベンダー化が進み、また、ユーザも情報処理部門でなく、エンドユーザのと ころまで下りてきて、トラブル処理や責任問題が難しくなってきた。
・社内の情報ネットワーク化が進み、情報が社外に漏れやすくなってしまった。

解決方法は模索中。

6.日本への示唆

 地域は元気だが、国の動きが見えない。シリコンバレーに多くの方が視察に来るが、見に来るばかりで、何をしたいのかが見えない。技術を学ぶことより、技術の背景に何があるかを考えるのが大事ではないか。
 今、企業は、世界を相手にした競争をやっているわけで、負けたら生きていけない。その点、日本からはエネルギーを感じられない。シンガポールに出張で行くと(エネルギーを)すごいと感じる。
 話は変わるが、ボイスメールというものがある。これは、普通の電話で電子メールのような使い方ができて便利だ。アメリカでは普及しているが日本ではまだ使われていない。この普及を進めてはどうか。
 日本では、インターネットTVというものが出てきたが、これは、インターネットを一方的な情報収集ツールと見ているところに誤りがある。インターネットの持つ双方向性を無視しており感心できない。(インターネットへの入門と見ればそれでもいいのかもしれない?)「個」が光るところにインターネットのおもしろさがある。
「地域」で情報をシェアするとき、「外」とのインターフェースを考えないといけない。何を他の地域と補完しようとしているか?地域のアイデンティティは何か?
 そういったことを考えるいいチャンスだし、考えるツールがそこにある。そういう意味で、ネットワーク社会は大きく日本を変えていくのではないか。

7.質疑応答〜スマートバレー公社について

 視察予定だったが、先方の都合で視察できなかったスマートバレー公社について質問が多く出た。簡単にその内容をまとめてみる。

・スマートバレー公社とはどういう団体か?

 シリコンバレーを良くしようと、地域の有志(企業)が集まって作った任意団体。資金としては企業の規模に応じて年会費を取るが、活動はボランティアベースで、各企業が所属する部会毎に人的・物的貢献を行う。
 設立の中心人物はヒューレットパッカード、3Comの会長やスタンフォード大学の教授などそうそうたるメンバー。

・どういう活動を行っているか?

 最近行われたのは「ネットデイ」。これは、地域の学校にネットワークを引こうというプロジェクト。コンピュータを出すところ、ネットワーク機器を出すところ、技術者を出すところ、いろいろな組織(参加者)が持てる資源を出し合ってプロジェクトを実現させる。ネットワークを引いたら引きっぱなしではなく、企業や大学から1カ月に1度程度出ていき、いろいろなことを見せてあげる。
 今、地域の学校に3000台のコンピュータを(パーツをアセンブルして)設置しようという「PCデイ」や、「ネットデイ」の第2弾「ネットデイ2」のプロジェクトが進行中。他にも交通渋滞をなくすためにテレコミュニケーションを有効活用しようという「テレコミュニティ」プロジェクトなどがある。このように、教育、公害、交通渋滞などのテーマごとにワーキンググループを作り、問題解決に取り組んでいる。

・ベースにあるもの。

 スマートバレーを良くしようという理念のもとに各会社・団体が地域の「市民」として参加しており、業務時間外に集まって活動している。成果を自慢したい政治家が表に出ようとするが押さえて、あくまでも民間のボランティア活動として行われている。
 どうやったら自分の子供の通っている学校をよくできるか、どうやったら環境汚染を防げるか、お世話になった地域社会にどういう形で社会還元するか、などということをひとりひとりが真剣に考え、参加型で取り組んでいる。社会システムの違いはあるが、これからの日本にぜひ取り込みたい考え方ではないかと思った。