視察を終えて
久留米大学 佐田 静夫

 コンピュータ、ネットワーク、マルチメディアなどの情報技術IT(Information Technology)の活用により作り出され、取り扱われるようになった「情報」が、いま世界中で物凄い速さでビジネスの分野へ、また地域社会や社会の構造へも大きな変化と影響を与えつつある。今回の視察はこの変化と影響が一番進んでいると思われる米国西海岸のシリコンバレーでこれらの実態とこれらが向かうであろう将来の方向を確認し、その結果を久留米地域の今後の情報化の展開に役立てようということであった。
 以降、視察全員の意見がまとめられ報告されているが、ここでは、当視察を通じて感じた個人の所感をビジネス、地域社会、学校にわけて述べ、併せて視察を終えた報告とする。

ビジネス

 もともと米国は起業家精神にあふれた若い国であり米国の企業人からは若い国、若い人の気迫が感じられるところである。今回の視察でもまた、なにものにも物怖じしない積極性、ダイナミズム、積極的な判断、合理的な時間管理、目的意識の明確さ、明確な活動計画の提示、自信に満ちた表現、行動等はビジネスの分野で成功ないしは成功しようとしている人物に共通のものであることを確認できたと思う。
 西海岸の企業活動の特色である「情報」を経営資源として企業活動を行ない成功している企業としてはネットスケープやヤフーが有名である。今回視察したオラクル、カルコムでもシリコンバレーの新しい経営スタイルである「情報」を経営資源として事業を伸ばしていた。
 ここではこれらの企業に共通して存在する次の2点に強い関心を持った。1つはこれら情報関連の企業では、いわゆるモノを作っている企業と違って、扱う「情報」そのものが画期的であればあっという間にその情報製品はデファクトスタンダード(業界の事実上の標準)となり世界のシェアを独占できるようになり、急激な事業の伸びに結び付くことができるということであり、2つ目は、これらの企業に活動をささえる十分な資金を提供する金融市場、資本市場が存在していることである。この資金提供が続けて存在しているということは資金提供側の期待が情報技術を通じて作りだされる「情報」が開く新世界への期待が膨らんでいるからに違いないと感じた。
 これらの企業に共通して存在する強い関心をもった2点は、すでに成功して急成長している2社だけに存在するのではなく4〜5社視察した、今から成長しようとしている企業についても同様に存在していると思う。土地などの資産がほとんどいらない「情報」という実に身軽な資産を経営資源として使っていることと、非常に有利なシリコンバレーの情報環境を存分に利用しているという意味である。
 視察した4〜5社の説明内容を一層よく理解するため彼等が企業を経営する場合の経営資源である人、物、金に分けて彼等の説明を理解すると次のようになると思った。まず、人については起業家に目的意識の明確な積極的かつ合理的な判断ができる人を人材として得ることができれば企業内の人とはネットワークを介して仕事ができるので集中した大きな仕事場は不要である。物については情報というものは本質的には無形な資源であるから理屈の上では情報を蓄え、提供するサーバーとサーバーを設置する場所があればよいことになる。金については明確な企業活動計画が提示できれば前述の資金を提供する金融市場、資本市場が利用できる経営環境であると理解した。
 次に、これらの企業で経営資源として使われている「情報」の中味であるが、視察した範囲でも情報提供からネットワークサービス提供、情報技術そもの迄と「情報」の中味はその広がりがあることを示している、目的意識のある起業家にとっての企業の種はいくらでもあることを物語っていると思う。
 以上からシリコンバレーにおけるビジネスは新しいビジネスを起こす種が「情報」であるからだけではなく、今迄この国に根づいていた、また今後も続くであろうこの国の若さの上に「情報」という強い追い風が働いて今日の積極的なビジネス活動の姿となっていると感じた。
 同時に、今回視察団に参加された企業関係の方々もこの視察を通じて「情報」という範囲にとらわれない色々なビジネスの新しい種、新しい様態のビジネス、経営についての考え方等について環境、国、文化の差を超えて理解され、自企業の業績拡大、新事業着手等について何らかのヒントを得られたのではないかと思っている。

地域社会

 自主性、独立性の強い個と地域行政の関係を、とくに情報化における両者の関係を現地で、今日の現実の姿と、将来の方向の両面について見れることには非常に関心をもっていたが、結果はスマートバレー公社、コロナド市ともに視察予定が変更になり残念の一語につきる。
 わずかに、パロアルトでの行政の力による情報網の無料設置化、住民サービスとして申請/確認書のネットワークによるペーパーレス化の話が聞けた程度であった。
 活動の主体は民間が担当し、民間の活力を引き出すための基盤の整備を行政が担当するというのが両者の関係を示す図式になっていると思うが両者の間の主導権、分担、調整等の現実の視察は次の機会とならざるを得ないと思った。

学校

 スタンフォード大学日米技術経営センターを視察した。
 大学と企業とのかかわりに力点をおいた建学の精神が今日でも受け継がれており、大学と企業の協業の実際が行動として継続されていることを確認できた。
 また、ここで行われている日本のコンピュータ、ネットワーク技術、日英間の技術翻訳、ビジネス文化などについての情報提供が行われていることからは、地域社会のみにとどまらず世界を相手として知識、情報の相互伝達を行うのが大学人の使命の1つであることを確認した。また、新しい技術の利用は一層その使命を容易にするものであることを常識的に確認した。

 視察を通じて米国ではビジネスの分野における若い人の気迫が強く感じられ、ひいては、米国は若い国だとの思いを深めた。このことが視察中のもっとも強い印象となった。しかし、視察全体の効果について個人としてもっとも評価できるところは今迄読み、聞きして知識としてもっていたことをこの視察を通じて現実に確認できたことであると感じている。ものごとを確実に知ることはものごとについて自信をもてることにつながる。まさに、Seeing is believing である。
 9月17日の視察団の団結式で我々が今もっている知識と現地で現物を見て得る知識には知識という点ではそれほどの差はないと思うが”百聞は一見に如かず”である、環境、国情、文化の違いを認めた上で現実的な理解をしようと呼びかけたが、全行動を共にした視察団の方々の視察中における折々の反応から全体としてはこの目標を達した視察であったと思っている。
 視察の結果は、全員の意見がまとめられたこの報告書の形で提出されているが、今後の地域の情報化の展開に役立てるようにしたいと考えている。
 最後に、団結式で呼びかけたもう1つの目標である楽しい視察団としようという点でも視察中一人の欠席もなく、活発な質疑応答など真面目すぎる位の日中と敬服に値する見事な健たん振りを発揮されたオフタイムとの間にコントラストの妙があり、すばらしいチームワークにささえられ実に楽しい視察団となったと思っている。したがって、この面でも目標を達したと、形ばかりの団長としては全員の協力に感謝し、視察を終えた報告とする次第である。