Kurume・Tosu Internet Conference

「The Journal of Internet」 Volume6,2001 || H O M E || || 2 || 3 || 4 || 5 || 6 || 7 || 8 || 9 || 10 || 11


「インターネットは大学を変えるか?」
久留米大学情報教育センター長
荒井 功
私がインターネットをはじめたのは、確か1994年頃、久留米大学コンピュータ教育センター(当時)のスタッフを通じてだったと思う。久留米高専や久留米工業大学の先生方をはじめ、ずいぶんとパイオニアとして苦労されていたように伺った。インターネット利用には、Windows3.1やMacOS7.0の上でフリーウェアを使うというもので、情報が乏しかったこともあって、いろいろ苦労したのを覚えている。
パソコン通信は利用していたので、電子メールや電子掲示板、ニュースクループ、プログラムライブラリー、論文情報検索エンジンの類は珍しいものではなかったけれども、世界に開いた安価なネットワーク環境とそこにある豊富な情報には驚かされた。国際機関や政府機関、大学などから種々の資料が即座に入手できるGopherは、国際政治研究者としてはドラエモンの「どこでもドア」を手に入れたような気分だった。理系の分野の技術のありがたさは統計・数理データ処理に計算機を使ったときにも感じたが、今度は統計数字ではなく文字を扱えるのであるから、文系研究者一般にとっても有用であることは容易に理解された。
それから数年のうちに、コンピュータとは無縁と思われた学会の雑誌にも、インターネット利用の方法が紹介され、その成果が報告されるようになった。インターネットは「研究の生産性」に関わるという議論まで登場し、インターネット利用は研究者のスキルの一つと思われるようになった。
ところが、インターネットは研究者だけのものではなかった。Webブラウザが登場し、Windows95がインターネットをサポートするようになると世間一般にも爆発的に普及するようになったのは周知の通りである。もちろん教育機関も例外ではない。
大学では、インターネットは、対外的にはホームページによる広報の手段として、また研究の延長としての専門教育では資料収集・検索の手段として考えられている。また、情報教育の中では、インターネット・アプリケーション・ソフトの修得が、それまでのワープロや表計算に新たに付加された。こうして、学生は、受験生としては大学のホームページを見て、入学してからはインターネットの利用法を教わり、インターネットで資料を集めてレポートを書き、インターネットで就職活動して卒業していくという具合である。
インターネット関連技術は、さらに教育の現場を変えていくかも知れない。IT支援教育システムでは、学生は勉強する資料・教材をネットで見るにとどまらず、授業そのものもネット利用で行うこともできるようになるからである。すでにChat+動画による演習、遠隔地授業、Web支援自習システムなど、アイディアだけでも目が回りそうである。こうしたシステムの導入と維持には、人的・資金的コストがかかるのは、いうまでもない。
大学が専門学校化してきているということがよくいわれるが、予備校でビデオ授業がすでに広く行われている以上、大学でも「売れる」授業を生産し宣伝する傾向は高まるであろうから、インターネット関連技術は大学間の教育競争を促進することになるであろう。

大学でのコンピューティングの普及は一層進むであろうが、問題は組織としての効率である。我が国の大学は久留米大学を含めて、まだコンピュータ・センターという施設と教育組織と管理組織を三つ兼ねたものがあるのが普通である。
IT先進国のアメリカではどうかというと、日本のような組織はみつけることができない。もとより、コンピュータを装備した施設はあるけれども、それは施設のある教室や図書館閲覧室というのと変わらない。情報教育といっても、今では、コンピューティング・スキルの訓練もあれば、ソフトウエア工学や情報科学あり、情報技術を利用した計量分析やシミュレーションといった専門教育もありで、総合大学であれば、どう見ても複数学部にまたがるものとなる。
他方で、一般の教員でも教育研究にインターネットをはじめとするIT利用をするわけであるが、余り専門外のことをするのは不効率であるから、図書館のライブラリアンと同様の情報専門職員は必要となる。
つまり、コンピュータというものが一般化したために、もはやコンピュータ関係のもの(設備・教員・職員)を一つにするというのは現実的でなくなってしまったのであって、コンピューティング施設、コンピューティングの支援組織、情報科学の研究組織(ない大学も当然ある)というように、機能毎に組織は別にしているのである。
私は、大学の情報教育センター所長として私立大学情報教育協議会という全国組織に行くことがあるが、どの大学を見ても同じようなコンピュータ教育組織があるが、組織責任者は、学長や理事長のところもあれば、教員のところもあるし、事務職員のところもある。 組織の位置づけは、あいまいなのである。
教育の情報化の学校組織上の意味があいまいなのは大学だけでない。実は国としても同様である。政府はIT教育を重点項目としてとらえ、学校へのコンピュータ施設導入への財政的支援措置を強化し、また「情報」科を必修化し「情報」科教員養成も始めるようになった。これらの措置が必要なことは間違いないけれども、教育の情報化の将来を考えると、学校にコンピュータ専門技術職員を配置する必要がある。
わが国では、教育に目をきかすことができる図書館専門職員(司書)への配慮さえ十分でないように感じられる。プロフェッショナルとしての情報技術職員を学校組織の中で評価する仕組みを考えなければならない。コンピュータ以外の領域の教育を理解するコンピュータ技術者をどう養成し、組織していくかが、忘れられている課題ではないだろうか。


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