Kurume・Tosu Internet Conference

「The Journal of Internet」 Volume6,2001 || H O M E || || 2 || 3 || 4 || 5 || 6 || 7 || 8 || 9 || 10 || 11

 

「ブロードバンド時代に思うこと」

久留米工業大学 電子情報工学課 講師
佐塚 秀人
 
今年はどうもブロードバンド元年ようです。
ブロードバンドという言葉は広帯域という意味の通信技術用語で、要は大容量データ通信が家庭レベルまで普及するようになるということです。徒歩かせいぜい自転車しか通れなかった狭い道が広げられて自動車で動けるようになるということで、待ちに待ったマルチメディア通信時代の到来ということなのです。
ブロードバンド・インターネットというと、CATVインターネット、そして話題のADSLがとりあえずの主役です。とりあえずというのはその先に光通信(FTTH)が控えているからです。そんな中、ISDNはどうなってしまうのと思っている方も多いと思います。昨年ISDNにしてフレッツISDNを契約したばかりだよ、という方も多いと思います。
残念ながら、もはやISDNに未来はないでしょう。ADSLにお金をかけるよりFTTHを待とうと思っていましたが、ADSLのほうがISDNより安くなる可能性が出てくると、もはやのんびり自転車レベルのISDNでがんばり続けるわけにいかなくなるでしょう。無理して買ったISDNルータや電話番号の変更など、いろいろ考えたわけですが、結局ADSLにする方向に気持ちは動いています(動かされています)。
ADSLを電話と同時に利用する技術は周波数多重によるアナログ技術なので、ISDNを利用していた人は、ADSLを利用するためにアナログ回線に変更する必要があります。アナログ回線をISDN回線にするには電話番号は変わりませんが、ISDN回線をアナログ回線にする場合は、ISDN専用電話番号というのがあったりするので、電話番号が変わってしまう場合があります。ISDN Liteで契約している人は、アナログ回線を利用する場合は従来どおりの加入権が必要になります。
さらに、ISDNはADSLにとってはノイズ源となり、高速通信の妨げになります。日本のISDN規格に合わせてANNEX-Cという規格を多くのADSL業者は採用しているようですが、それによって速度の上限は1.5Mbps程度になってしまうようです。欧米や韓国でもっと高速通信が可能なANNEX-Aという規格が使われています。 低価格ADSLで話題になっているYahoo! BBはANNEX-Aを採用するようで、通信速度は8Mbps、きっとISDNは今後なくなっていくという考えがあるのだろうと思います。どうも、ISDNは鬼っ子にされてしまいそうです。NTTはあれだけISDNを宣伝しておいて、これからはADSLよって言うのはそれなりに抵抗を感じていることでしょう。どうにかしてくれることを期待します。
インターネット環境は、どんどん高速・大容量化の方向に進んでいます。夢だった定額常時接続もフレッツの登場で、もはやあたりまえになりつつあります。しかし、表はブロードバンド・インターネットの時代なのですが、裏ではインターネット犯罪の時代に入ろうとしています。電話回線でモデムを使ってという時代は、田舎の道を徒歩でてくてくという時代で、どんなに無防備でも何もおこりはしませんでした。コンピュータへの不正進入やデータの盗聴といった話も、大企業レベルで考えることで、言わば大都会の交通事故のような話、関係ないことと思っている人も多いと思います。
でも実際、コンピュータの不正進入や盗聴はあたりまえになっています。常時接続によって、同じIPアドレスで長時間接続するコンピュータが増えました。ダイナミックにIPアドレスが振られるものでも、切断をするまでは同じIPアドレスが割り振られています。WEBサーバの公開をすれば、それだけですぐ攻撃の対象となります。WEBサーバを立ち上げて、そのままメンテナンスをしていない人は要注意です。かなりの確率で不正進入されています。
多くの手口は、サーバ・アプリケーションのセキュリティホールです。セキュリティ・ホールの情報はいち早くネット上に流されます。この情報を受け取り、すみやかに対応していれば問題はありませんが、そのままにしておくと大変です。ネットに流されたセキュリティ情報はそのまま不正進入マニュアルに早代わりします。
世の中には、古いOSをそのままセキュリティ対策もせず使っているサーバ・システムがいっぱい稼動しています。高速なインターネットは、そのようながら空きサイトを簡単に見つける役にもたってしまいます。世の中のWEBを公開しているようなサイトに無差別接続攻撃をかけることも簡単にできてしまうのです。
多くのコンピュータのアカウントは、パスワードを使って守っていますが、インターネット上のデータは暗号化などはなされるそのまま流れていますから、悪意を持ってネットワークをのぞけば丸見えです。無防備なサイトの情報、パスワードのリストなどは、裏の世界では堂々とやりとりされています。
暴走族が盗難車で暴走行為をするのと同様に、不正進入情報は、不正進入したマシンを使ってやりとりされます。犯罪者に乗っ取られてしまうわけです。
ブロードバンド時代は夢のネットワーク環境をもたらしてくれるのですが、同時にネットワーク社会のほんとうの現実をも見せてくれます。自家用車は便利であり、社会の仕組みも文化も変えたが、交通事故、環境問題、暴走行為など多くの問題も生み出しています。
ブロードバンドネットを何に利用するかが問題という話がありますが、それはそれほど大きな問題ではありません。むしろ、どう利用されてしまうか、どう環境を変えてしまうかという、一般の人から見て受動的な面を気にする必要があるのではないでしょうか?
インターネット環境も我々の生活環境の一部であるという考え方が、これから必要になるのではないかと思うこのごろです。便利で安全なネットワークを作り上げていくには、それなりの努力が必要なのです。


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