Kurume・Tosu Internet Conference

「The Journal of Internet」 Volume5,2001 || H O M E || || 3 || 4 || 5 || 6 || 7 || 8 || 9 || 10

 

-- インターネット社会の構築のための --

インターネットの最新動向

久留米工業大学 電子情報工学科 講師
佐塚 秀人

昨年政府のほうからITという言葉が広められ、接続環境は急速にレベルを上げているような気がします。NTTが乗る気でなくすったもんだあったADSLも結果的には常時接続の低価格化の方向を示す結果になり、今年は常時接続、高速・広帯域、低価格と誰もが望む環境が手に入るようになるような気がします。もっとも世界的に見ると日本は遅れているようで、シンガポール、韓国、台湾といった国は日本より一足先にそのような環境が提供されたようです。
遅れているとか、進んでいるといった話を問題にしなくてはならないのは、このようなインフラストラクチャの話ではありません。もちろん最先端を日本が走っていけるならばそれはすばらしいことでしょうが、ベンチャー的なフットワークの軽さでやっていける時代は終わっているような気がします。我々がこれからやっていかなければいけないのは、世界のITビジネスでノーガードの打ち合いをするのではなく、きちっと生活や文化の中にスマートに情報システムを定着させていくことのような気がします。なりふりかまわずITを振り回すのではなく、産業、経済、教育、福祉、政治などを広く見てそれらの連携をとるために情報システムを活用しなくてはいけません。業界のトップの方々にお願いですが、IT革命には多くの犠牲が必要だなんて間違っても考えてほしくないものです。
インターネット・ヴァーチャル世界は、とんでもない勢いで人口を増やしているようです。十年前は空間とは感じられない単なる通信環境だったものが、今はそこが経済や文化のフィールドがあること誰でも感じられるようになってきました。もっとも、静かで落ち着いた世界があるのではなくて、呼び込みの大きな声が飛び交っている喧騒の世界のような気がします。これが活気というものなのでしょうが、安心して落ち着いた生活をしたいと思う人も多いのではないでしょうか?これは私の勝手な考えですが、日本がIT先進国を目指すというならば、日本らしい落ち着いた文化や安心できる生活をインターネット世界の上で実現・構築していくことのような気がします。
話の方向を少し変えます。現在のインターネット世界は自由がすべてで、のびのびしていて夢いっぱいだが、住人の住所も名前もわからない、匿名の怪しい人ばかりの世界のようにも見えます。インターネット市民に住所と名前を与え、身分証明書をもったうえで活動するというルールがこれからは必要な気がします。インターネット市民の安心した市民生活のために、インターネット市役所のインターネット住民票がいるようには思えませんか?
技術的な話に目を向けると、電子認証技術というものが注目されています。注目されている理由は、エレクトリック・コマースにおける経済活動を安全に行うための技術として位置付けられているからです。しかし、相手が誰か、信用できる人物か、といったことを確認したい場面はビジネスにおける契約やお金のやりとりだけではないですよね。日々の生活すべてにかかわってくる話です。実世界だと、相手を顔や声で特定できますし、信用という点では、友人関係や親族関係から信用したり、職業や地位などから信用したりすることもあるでしょう。現実の世の中では、周囲の人の目からいろいろな面で監視されているともいえます。インターネットの世界では、相手を正確に特定するという手段が確立していません。電子メールアドレスやURLは簡単に書き換えができますし、改竄も可能です。電子メールは文章の癖もあるので、友人からのメールなどはわかりますが、一般的に個人の証明ができるものではありません。インターネット上で利用できる身分証明書のようなものは技術的には確立していて、実は既に誰でも利用できるレベルになっています。
実際にWINDOWSやNetscape Communicatorには証明書を組み込む機能がありますし、電子メールには証明書つきメールや、相手の証明書を元に暗号メールを送ることもできます。
問題はどうしてインターネット世界のルールとして定着させていくかとか、個人の証明書を正しく発行し、運用していくかといった点にあるようです。これは、単純に技術的な面の問題ではないでしょう。ADSLやFTTHの普及が将来のネットワークの話としてよく話題になっていますが、このような認証の問題のほうが落ち着いたインターネット市民生活を送るには必要な気がします。
インターネット上に市民の認証局を作り、インターネット市民としての住所、電子鍵を登録し、誰でも確認ができるようにする。電子鍵は印鑑にあたるものですが、コンピュータの世界では、それを暗号通信に利用できます。ここでは詳しくは述べませんが、2つの鍵のペアを組み合わせて使う公開鍵暗号技術は、実世界の印鑑よりもより幅広い認証方式、セキュリティ環境を提供してくれます。
このような認証のネットワークがインターネット利用者に定着すれば、証明書のないメールは廃棄することもできますし、相手を特定し他人に盗聴や改竄をされていないという保証の上で安心してコミュニケーションができます。ということは、プライバシーにかかわる文書の入手や送付、役所等への各種申請、情報の照会など、安心して行える基盤ができることになります。
ウェブのにぎやかな世界やちょっとあやしい文化を楽しむインターネットも面白いことは確かですが、新たなネットワーク社会の安心できるネットワーク生活という視点で、これからやるべきことの1つに、このようなインターネット社会のシステム作りがあるような気がします。
昨年、久留米鳥栖地域インターネット協議会では、KURUME-TOSU.NETというドメイン名を取得しています。市民のインターネット接続環境を整備しようと始めたKTARNから、インターネット社会システムの構築という視点に方向を向け、市民のインターネット文化構築という立場で、KURUME-TOSE.NETを作って行ければと考えているところです。


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